心に残ったこと

広島県尾道市は「坂の街」と呼ばれている。住宅が建ち並ぶ斜面を見上げると想像以上の急勾配な坂が続いていた。

 

私は建築関係の仕事に関わっている。仕事柄、建物を意識して旅することが多い。今回も建物を求めて尾道市を旅した。旅をして心に残ったことを書いてみた。尾道市街北側に位置する千光寺山にある千光寺公園内の坂を登りきると既視感のある建物に出会った。コンクリート打ち放しに規則性のあるガラス窓。すぐにピンときた。

 

「安藤建築だ」

 

思わず声を出しそうになった。下調べをせずに尾道市を訪れていたので、このサプライズには感動した。寄棟造・本瓦葺の本館に寄り添うように建てられた奥行きのある美術館である。造りや歴史など本館との違いを感じさせつつも見事に調和していた。さらには周囲に広がる自然とも同化していた。有名な建築家たちが素晴らしいと言われるのは建物の設計だけでなく周辺環境を上手に取り込むところにあると思う。

 

安藤忠雄氏が設計する建物はコンクリートを使ったものが多い。コンクリートは自然素材と相反する人工的な素材のイメージが強い。そのイメージを微塵も感じさせない。まるで自然の一部であるかのように存在する。壁に触れてみる。他のコンクリートの建物とは質感が違う。塗装でツルツルしているのではなく丁寧に磨いているからツルツルしている。温もりさえ感じさせる。感動させられる。私が観た安藤建築のなかで最も印象に残っているのは香川県直島町にある「地中美術館」だ。順路を進む。最後に行きつく真っ白な大空間。モネの一室だ。観たこともない大きさの「睡蓮」が待ち構える。絵と一体になった空間を体験した。貴重な体験だった。

 

今回の旅で偶然出会えた安藤建築。何のために旅をしているのか問われている気がした。安藤氏がよく言っている言葉が聞こえてくる。

 

「自分の頭でよく考えろ」

 

また旅に出たくなった。今度はどのような建物に出会えるのだろうか。